JSA福井支部会員のみな様

『福井の科学者』福井支部結成50周年記念特大号

原稿募集のお知らせ

 5月17日、日本科学者会議(JSA)福井支部の第53回定期大会(5月13日)で発出した「岸田文雄内閣の原発回帰政策、およびG7広島サミット2023を、そのための政治宣伝の場に利用しようとする姿勢に抗議する」・・声明(略称:GX声明)について、福井県庁記者室で、JSA福井支部が記者会見を行いました。

 記者室参加は、山本富士夫代表幹事と山本雅彦事務局長の他に、Zoomでの参加は、高木秀男幹事、山根清志幹事、笠原一浩会員(弁護士)が参加しましたが、「声明」の第1起案者の小野 一会員は授業の都合で参加できませんでした。

記者会見する、山本富士夫JSA福井支部代表幹事(福井大学名誉教授・左側)とZoomで参加する笠原一浩同会員(弁護士・パソコン画面)
記者会見する、山本富士夫JSA福井支部代表幹事(福井大学名誉教授・左側)とZoomで参加する笠原一浩同会員(弁護士・パソコン画面)

 はじめに、山本代表幹事と山本事務局長が、記者に事前に配布済みの「声明」を説明しました。

 その後、笠原会員が、朝日新聞などが報じた翻訳改ざん問題を次のように説明しました。

政府が、フクシマ放射性汚染水の海洋放出で意図的捏造と思われる誤訳

 フクシマの放射性汚染水の海洋放出をめぐって、環境省のHPに公開している共同声明(G7気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケ)の和訳では、「廃炉および福島の復興に不可欠である、多核種除去処理システム(ALPS)の処理水の放出」と書いてある。よって、この書き方だと、「処理水の放出が福島の復興に不可欠である」と読める。

 しかし、英文を正確に翻訳すると「廃炉および福島の復興に不可欠なのは、処理水の放出がIAEAの安全基準や、国際法に準拠して行われること、放出が人や環境に害を及ぼさないことは廃炉と福島復興に不可欠である」となる。よって、放出そのものが廃炉や復興に不可欠なものではない。

 このように、意図的捏造と思われる誤訳をしていると述べた上で、4月15・16日に札幌市で行われたG7気候・エネルギー・環境大臣会合終了後の記者会見で西村康稔経産大臣は「処理水の海洋放出を含む廃炉の着実な進展、そして、科学的根拠に基づく我が国の透明性のある取り組みが歓迎される」と説明した。隣で聞いていたドイツのレムケ環境・原子力安全相は「原発事故後、東電や日本政府が努力してきたことには敬意を払う。しかし、処理水の放出を歓迎するということはできない」と批判したことを紹介。笠原弁護士は、政府がG7の共同声明をねじ曲げて訳したことを認めるべきで、住民団体から処理水の対応については重要な提案が出ているのでそれを含めて日本政府は対応を考え直すべきだと指摘しました。

「たばね法案」・・エネルギーの安定供給を表面に出しながら核エネルギーの軍事への転用を裏面に盛り込んだものであるとみられ、極めて危険

 また、山本富士夫代表幹事からは、この声明に書かれた「経済産業省資料(2022年5月13日)に「エネルギー安全保障」の重要性が書かれているのは、「声明」の中で「たばね法案がエネルギーの安定供給を表面に出しながら核エネルギーの軍事への転用を裏面に盛り込んだものであるとみられ、極めて危険である。」という記述について説明しました。

「エネルギー安全保障」とは、日米軍事同盟にもとづく安全保障で、つまり、原発の核エネルギーを核兵器に転用するという解釈を含んでおり、これを「束ね法案」の中に隠しているというのが私たちの解釈で、弁護士会でも同様な解釈がいわれていると指摘し、原発と核兵器は表裏一体性があると強調しました。

 さらに、今年3月、広島サミットの部分を除く、同様の内容で福井県に申し入れたときのことを紹介しました。原子力安全対策課長に対し、このGX法案が成立した後に、福井県民の安全にとって福井県はどのように対応するのか、と尋ねました。同課長は、あわててしまい答えることができませんでした。このとき、私たちは、「この法案は、住民の安全を優先させるのではなく、規制委員会よりも電気事業法を優先し電気事業者を守ると基本法に書いてあり、原子力の推進・利用が第一にされているのではないか」と質問しましたが、同課長から回答はありませんでした。山本代表幹事が、「そんなことも答えられないのか。そんな程度か」とただすと「はい、その程度です」と開き直ったことを紹介しました。これでは県民の安全は守れないと指摘ました。

ーーーーーーーーーーー 以下、声明文 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

We protest against Kishida Fumio Cabinet’s return to pro-nuclear energy policy and its intention to use the G7 Hiroshima summit 2023 as an opportunity for propaganda
(Japan Scientists’ Association Fukui Branch) May 13, 2023

Premier Fumio Kishida launched a plan to “maximally use” nuclear power plants (NPPs) and decided a bill of Green-transformation Act1 in the cabinet meeting on February 10, 2023. Here, the theory of green-transformation (GX) is inadequately mobilized to justify the retreat from nuclear energy policy principle after the Fukushima-Daiichi NPP accident in 2011: It has been a governmental policy not to build new NPPs and to limit NPP’s operation within 40 years. Parallel to this legislation process, the plenary session of the House of Representatives on April 27 passed the bill of “GX De- carbonated Power Resources Act.” This is a “packaged bill” which aims to amend energy-related five present laws2 altogether and will pave the way to over 60-years NPP-operation.

Such an assertion that CO2-free NPPs are advantageous for the purpose of global warming prevention is scientifically incorrect and therefore unacceptable. We the Japan Scientists’ Association (JSA) have critically commented about the recent tendency of “Nuclear Renaissance”, e.g. “An Urgent Statement of JSA International Department about the European Commission’s Proposal on January 1, 2022”, in which we explained that the European Commission’s proposal is a wrong direction which might pave the way for nuclear expansion and demanded the European Commission will not include nuclear power generation into the European Union’s “green list” (EU taxonomy for sustainable activities). At the same time, we never neglect the fact that a myth of CO2-free NPPs is prevailing among people, even in a part of environmental movements. Looking back on the fact that the Ministry of Economy, Trade and Industry’s document on May 13, 2022, described the importance of energy security, it is supposed that the today’s bill of GX De-carbonated Power Resources Act stresses the stable energy supply on the one hand but conceals on the other hand the possibility of military conversion of nuclear energy in the future. We regard it as a very dangerous intention.

Probably, Japanese administration under Premier Kishida will use the G7 Hiroshima summit 2023 as an opportunity to share its nuclear expansion policy on the pretext of green-transformation (GX) with the political leaders of the G7 countries. The JSA Fukui Branch protests against such a false intention and aims to promote collaboration between anti-nuclear movements and environmental movements which tackle with climate change prevention mainly. We think:

After a partial amendment in the plenary session of the House of Councilors on April 28, 2023, the plenary session of the House of Representatives on May 12 reconsidered and passed the bill.

The Atomic Energy Basic Act, Act on the Regulation of Nuclear Source Material, Nuclear Fuel Material and Reactors, Electricity Business Act, Spent Nuclear Fuel Reprocessing Fund Act, and Act on Special Measures Concerning Procurement of Electricity from Renewable Energy Sources by Electricity Utilities.

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1 After a partial amendment in the plenary session of the House of Councilors on April 28, 2023, the plenary session of the House of Representatives on May 12 reconsidered and passed the bill.

2 The Atomic Energy Basic Act, Act on the Regulation of Nuclear Source Material, Nuclear Fuel Material and Reactors, Electricity Business Act, Spent Nuclear Fuel Reprocessing Fund Act, and Act on Special Measures Concerning Procurement of Electricity from Renewable Energy Sources by Electricity Utilities.

  1. (1)  Kishida Cabinet should refrain from using the G7 Hiroshima summit 2023 as a justification of its return to pro-nuclear energy policy on the pretext of green-transformation (GX).
  2. (2)  Kishida Cabinet should refrain from using the G7 Hiroshima summit 2023 as a support for accelerating ocean release of radioactive contaminated water of Fukushima-Daiichi NPP.
  3. (3)  Kishida Cabinet should refrain from regarding the Nuclear Renaissance in recent years as a solution for global warming prevention. It is important that Germany, one of the G7 countries, has successfully phased out from nuclear energy parallel to its fight against climate change.
  4. (4)  The G7 countries must devote to preventing the crises of nuclear war and nuclear disaster in connection with the Russian invasion of Ukraine.

The JSA is a scientists’ community in a country which has experienced not only miseries of atomic bombs in Hiroshima and Nagasaki but also severe nuclear accident in Fukushima. Further, the JSA Fukui Branch is a civil organization engaging with the realities of communities where many NPPs are located. We publish a statement/message for ecological justice at the very moment when the worldwide public concerns are concentrated in Hiroshima.

岸田文雄内閣の原発回帰政策、および G7 広島サミット 2023 を、 そのための政治宣伝の場に利用しようとする姿勢に抗議する

2023年5月13日 日本科学者会議福井支部

岸田文雄首相は、「原発の最大限利用」方針を打ち出し、2023 年 2 月 10 日に「GX 推進法 3

案(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)」 を閣議決定した。そこで は、グリーントランスフォーメーション(GX)の理念を不適切に援用することで、原発の 新増設を想定せず既存原発の運転期間も 40 年に制限するなどといった福島第一原発事故 (2011 年)以来の政府見解からの後退を正当化する論理構成がとられている。それと並行 するかたちで、4 月 27 日の衆議院本会議は、「GX 脱炭素電源法案」を可決した。同法案は、 5 つのエネルギー関連現行法(原子力基本法、原子炉等規制法、電気事業法、再処理法、再 生可能エネルギー特措法)をまとめて改正する「たばね法案」で、原発の 60 年を超える運 転にも道を開く。

CO2 を出さない原発は地球温暖化対策上有利といった類いの主張は、科学的に誤りであ り、容認しがたい。私たち日本科学者会議(JSA)は、近年のいわゆる「原子力ルネサンス」 とでもいうべき動向に対し、批判的立場をとってきた。例えば、「2022 年 1 月 1 日付けの欧 州委員会提案についての JSA 国際部緊急声明」などがそうであり、その中で私たちは、こ の欧州委員会提案が原発拡張に道を開きかねない誤った方向性であることを説明し、欧州 委員会が原子力発電を欧州連合の「グリーンリスト」(EU タクソノミー)に加えないことを 求めた。他方では、私たちは、CO2 を出さない原発という「神話」が、一部の環境保護運動 も含め人々の間に広がりつつあるという事実も軽視しない。また、経済産業省資料(2022 年 5 月 13 日)に「エネルギー安全保障」の重要性が書かれているのは、「たばね法案」がエネ ルギーの安定供給を表面に出しながら核エネルギーの軍事への転用を裏面に盛り込んだも のであるとみられ、極めて危険である。

おそらく、岸田首相統治下の日本政府は、G7 広島サミット 2023 を、グリーントランスフ ォーメーション(GX)を口実に原発回帰を図る自らの政策に対する G7 諸国首脳の「お墨 付き」を得るための場として利用しようとするだろう。JSA(日本科学者会議)福井支部は、 そのような目論見に抗議するとともに、気候変動防止対策を中心に活動する環境保護運動 と反原発運動の協働促進を目指す。私たちの見解は、以下のとおりである。

1 岸田内閣は、グリーントランスフォーメーション(GX)を口実に原発回帰を図る自ら の政策の正当化のために G7 広島サミット 2023 の場を政治的に利用すべきでない。

4 月 28 日の参議院本会議で修正可決された後、5 月 12 日の衆議院本会議での再審議を 経て、成立した。

2 岸田内閣は、福島第一原発放射性汚染処理水の海洋放出にお墨付きを得るために G7 広島サミット 2023 の場を政治的に利用すべきでない。

3 岸田内閣は、いわゆる原子力ルネサンスという近年の動向を、地球温暖化防止対策を 進めるための方策とみなすべきでない。G7 構成国のひとつであるドイツが、気候変 動防止対策をとるのと並行して脱原発にも成功したことは、重要である。

4 G7 構成国は、ロシアによるウクライナ侵攻との関連において、核戦争の危機および 原子力災害を防止する方策を講じなければならない。

JSA は、ヒロシマ・ナガサキにおける原爆投下と、フクシマの原発事故の悲惨さを経験し た国における科学者コミュニティである。また、JSA 福井支部は、数多くの原発が立地する 地域社会の現実の中で活動する市民団体としての性格も有する。私たちは、世界の人々の関 心が広島の地に集中する今、エコロジー正義を願い声明/メッセージを発出する。